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2009年01月03日(土)更新

溺れる者は“本”にもすがる。

本はほとんど大手ネット書店で買うようになってしまいましたが、「本屋さん」という
のは、あいかわらず本好きにとってはハッピーな場所ですね。

10年ほど前、トム・ハンクスとメグ・ライアンが共演した映画「ユー・ガット・メール」。
ニューヨークの片隅で、メグは母親の代から続く小さな絵本屋を経営しているので
すが、近所の子供たちに「読み聞かせ」などをする場面などがあり、店内もなんとも
素敵な本屋さん。印象に残っています。

年末・年始に読もうと思って、最近福井市内にできた本やディスクなど数十万点を
置くという「大型書店」で2冊ばかり買いました。本離れがいちじるしいといわれる
昨今、順調にいってもらうことを願っていますが、その為には地元の「本屋」さんで
本を買うことも大事です。

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そのうちの1冊“ART COMPANY”「知識デザイン企業」(紺野 登著 日本経済
 出版社 @1900.-)は、私にとってはワクワクしながら読んだ本で、不安な
年明けを払拭させてくれるような思いがする良書でした。

私はベストセラー小説とかはほとんど読みません。経営書も一時は高価なものも
買いましたが読了したものは少なく、ハウツー本も大仰なタイトルにつられて以前
はかなり読みましたが、最近は少なくなりました。

古典を読むのが大事と言われますが、かなりのエネルギーがいるような気がして
これもなかなか取り掛かれません。要するに読書家ではないのです。

永く興味をもって読んでいる分野の本といえば、美術・デザインの関連書籍でしょう
か。仕事にも関係がありますが、なにより楽しいからです。

ただ、なんとなく「アート」が次の時代のキーワードになる、「真善美」の経営が求め
られるようになるのでは、との思いをずっと持ち続けてきました。
しかし、美学やデザイン理論を系統だてて学ぶ機会も持ち得ませんでした。

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本書に次のような一節があります。
『企業は創業者の暗黙知(精神やビジョン)を伝承するために、時には創業者の
個人的思想も含めて、独特の組織文化を作り上げるのである。これは歴史のある
企業に限らない。第1章でも触れたが、グーグルのような新興企業でも創業者の
理念や哲学を文化として継承することは重要な課題だ。逆に歴史が長くとも、伝統
を失った企業は山ほどある。
さて、さらにボラニー(ハンガリーの物理化学者で科学哲学者)は、絵画・音楽など
の芸術文化(本書で言うアートより狭く、芸術を意味する)は、その社会にとっての
「上位の知識」であるとも述べている。つまり、芸術という形態で社会にとっての
高度な知識が保持されるというのである。芸術は上質の生活文化となり、さらに
より日常的な生活文化の源流となっていく』・・・・・。

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本書は、脱工業化社会における新しい企業モデルとして「アート・カンパニー」という
概念を提唱され、これこそが日本の企業の目指すべき形態であるとし、そのイメー
ジは「真摯」である、と述べられているように理解しました。

当社も「生活文化関連分野」の企業を標榜していますし、これから本書を何度も
読み返すことになるでしょう。そういう意味ではバイブルのようなもので、座右の書
として、後継者には別に一冊買って贈ることにしました。

横山国男

【染型工房 横山工藝】
http://www.ykougei.jp/
【オーダー よさこい屋】
http://www.yosakoiya.jp/

2008年12月10日(水)更新

「京都漱石の會」

昨12月9日は夏目漱石の命日でした。(1916年没 享年49歳)。

漱石については作品もあまり読んでいないのですが、明治34年留学先のロンドン
での日記に次のような一節があることを知り、ぐっときました。

「往来にて向こうから背の低き妙なきたなき奴が来たと思えば
                       我が姿の鏡にうつりしなり」 

異郷の地で日本人であることを厭というほど思い知らされる、食費をギリギリまで
つめて本を買い、そして夜は下宿にて真剣に日本の前途を考え続けた漱石。
精神的限界まで追い込まれながらも、帰国してあれだけの文学における業績を
残した人。・・・魅かれます。

昨年の初秋「江戸東京博物館」で開催された「文豪夏目漱石・・そのこころとまな
ざし」展を観ました。その時の感想などは当時ブログにも書かせてもらいましたが、
もし漱石が生きていたら今の日本をどう思うでしょうか。

漱石についてのムック本ともいえる内容豊富な図録

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今年の5月若葉のころ、「京都漱石の會」と差出人の名のある大きな封書を頂き
ました。
代表 丹治伊津子(さん)とあります。「?」と思いながら内容物を見て納得しました。
私のブログをご覧になったそうで、立ち上げたばかりの「会」にお入りになり
ませんか、というお誘いでした。

丹治さんは、裏千家のご高弟でもあられますが、私より少し年長の方と思われる
のに、数年前から「椿わびすけの家」というブログを縦横無人(デジカメもパシパシ)
の内容で発行されておられ、お若い感性で尊敬してしまいます。

別館「夏目漱石の部屋」というページでは、漱石のお孫さん松岡陽子マックレイン
さん(1924年お生まれ、現オレゴン大学名誉教授)とのご交遊や、あちこちでの
生き生きした、本当にモダンで快活な日常が綴られていて、私ごときが失礼です
が、教養あふれる素敵な日本女性を目の当たりに見る思いがします。

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会報「虞美人草」創刊記念号 写真は、同封されていた会報誌「虞美人草」の創刊号ですが、
 創刊に寄せてお祝いの言葉を寄せられている錚々たる諸先生
 の顔ぶれを拝見すると、いくら「入会の資格を問いません」
 とあっても正直ちょっとひるんでしまいます。

 たとえば「漱石と私」と題して、人間環境大学名誉教授の
 井尻益郎先生のお寄せになった原稿は、内容もさることながら
 文頭でのごあいさつがとても美しい文章で感動しました。
 ご紹介したいと思います。

『このたびは、丹治伊津子先生の馨しい御事業「京都漱石の會」発会、まことに
おめでとうございます。謹んでお祝辞を申し上げます。
大切の会報に一文を寄せるよう、思いがけぬお勧めを頂きました。生来文学音痴
の身、あまりに不相応で随分躊躇いたして参りました。
しかし、重ねてのご要請を賜り、分際を弁えませず尊い会報を雑文で汚しますこと
を何卒お許し下さいませ。』

「謙虚」とはどういうことかをこの美しい日本語で思い知らされる気がいたします。

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この秋にはご丁重にも第2回のご案内もいただきました。
京都嵯峨小倉山の名邸「渡辺家別邸」が会場で、大変魅力的でしたが、はずせぬ
所用と重なり出席はできませんでした。

それより、少しずつでも「夏目漱石全集」を読み進み、皆様のお話が多少なりとも
わかるようにすることの方が先決、と思うこのごろです。

漱石夫妻 愛のかたち (朝日新書)松岡陽子マックレイン著

横山国男

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2008年12月08日(月)更新

菊池寛賞受賞―かこさとしさん(絵本作家)

第56回菊池寛賞(日本文学振興会主催)の受賞者は、宮尾登美子さん、安野光
雅さん、それに絵本作家のかこさとしさん(82)の3人でした。

宮尾、安野両氏は著名ですし、特に安野さんの絵本などは子供が小さいころ、
何冊か買ってやった記憶があります。その長い画業での作品数は膨大で、美しい
水彩画や装幀でもおなじみでした。

宮尾さんでは映画「鬼龍院花子の生涯」がすごく印象に残っています。
いまは亡き夏目雅子。生きていたら岸恵子とならぶ国際的女優として大成されて
いたはず。
大河ドラマ「篤姫」の原作も、宮尾さんの「篤姫の生涯」からですね。

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かこさとしさんのことは不勉強で知りませんでした。他のお二方でなく、かこさんが
地方紙に写真入りで大きく取り上げられているのは、かこさんが福井県武生市
(現在越前市)生まれで、8歳まで住んでおられたそうで、そのご縁ということも
あるでしょう。

作品には第1作の「だむのおじさんたち」から、「だるまちゃんとてんぐちゃん」、
「からすのパンやさん」など500点以上もあるということです。

絵本作家ですから、たとえ8歳までであっても、故郷の美しい山や川の印象が、
きっとその絵に描き込まれたに違いありません。

受賞の喜びを語られたかこさんの言葉に、あらためて子どもって大したもんだなあ、
と思う言辞がありましたので、その言葉をお借りします。

かこさんは
「子どもは自己中心的とか言われるが、超法規的な“みそっかす”ルールを発揮
して小さな子の面倒をみるなど、道徳教育の教科書を地でいくようなことをやって
のける。それは生きるという発奮、望みを抱いて毎日を送り、周りからいろいろ
摂取し、糧にしているからだと気がつくのに50年もかかった」。

【超法規的みそっかすルール】というのがいいですね。このルールこそが「イジメ」
をこれほどまでに社会問題化させないルールだったはずなんですが。

かこさんのお仕事が高く評価されたのには清々しい気持ちになりました。

横山国男

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2008年11月19日(水)更新

趣味「読書」を「本好き」に改めることにしました。

「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」(町山智浩著・文藝春秋@?)
という本が出たそうです。

青年層の7割は新聞を読んでいないし、CNNを視聴している人の平均年齢は
60代で、大半の人はニュースを知らないか知ろうとしない。
パスポート所持率は20%で、80%の人は海外の事などに関心がない。従って
年金制度が破綻していることも一般人は知らない、などということが書いてある
内容のようです。(週刊文春11月20日号コラムより)

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もちろんアメリカ人をおとしめる目的で書かれている本ではなく、そこから色々な
洞察を試みているのでしょうから、ちょっと読んでみたい気もします。

きっとアメリカ人の「読書に関すること」などについても書かれているに違いありま
せん。しかし、「本」など読まなくても、先ごろ93歳で亡くなったターシャ・テューダの
ように開拓時代そのままの生活、愛する庭とコーギー犬とともに一生を送ったアメ
リカ人をこよなく愛しく思います。

ただ上の場合の「本」というのは、数多ある雑誌やムック本などのことです。
ターシャは数々の古典や名作を読んでいたに違いありません。そうでなければ
自身が絵を描き、創作した多くの童話を生み出すことはできなかったでしょう。

ターシャの庭

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読書家で知られるアスキーの成毛社長が、「ビジネス書やハウツーものなどは
いくら読んでも“読書”とは言わない。古典や文学の名作にしか人間の永遠の
テーマは書かれていないから」と何かで読んだ気がします。

私はといえば「カラマゾフの兄弟」は映画でしか見てないし、中学校の文集責任者
のとき、国語の先生が「チボー家の人々」の夏休み読書日記を寄稿していただい
たのですが、あまりの大作のようで恐れをなして読む気になりませんでした。

老後「漱石」を少しずつ読みたいと思って、江戸東京博物館の「文豪・夏目漱石展」
を観にいった話を以前ブログに生意気にも書きましたら、「京都漱石の会」の代表
丹治伊津子様(椿わびすけ様)から、「ぜひ会にお入りください」とご丁重なお手紙
を頂戴し、あわてました。(この経緯は後日書きたいと思います)

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本は書かれている内容が大事なことは言うまでもありませんが、それならパソコン
や携帯で読めればOKかというと、やはり美しい写真やイラスト、装丁などに魅か
れて買ってしまうことも多くあります。

ハウツーものはあまり読みませんが、ビジネス書、美術、デザイン関係が多く、
雑誌、ムック本の類も好きなので、成毛氏に言われるまでもなく、「読書家」では
なく、単なる「本好き」ですね。

それで、今日からこのブログの「個人プロフイール」趣味の欄に、おこがましくも
記載してあった「読書」というのはやめ、「本好き」としました。
蔵書二万冊という同年の知人がいますが、これくらいでないと「読書家」とは言え
なさそうな気がします。

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“ビジネスの常識を覆す永続する企業の経営哲学・パタゴニア創業者の経営論”
と副題がついた「社員をサーフィンに行かせよう」(創業者イヴォン・シュイナード著
東洋経済新報社@1800-)はパタゴニアフアンなので大感激本。

創業者イヴォン・シュイナード著  東洋経済新報社@1800-

フッと思って2002年マガジンハウスから出たTarzan特別編集号“パタゴニアが
教えてくれること。”(ムック本)を書棚から引っ張りだしてパラパラ再読。

巻頭一発目にいいこと書いてあります。
「いかなるものにおいても、完璧とはそこに加えるものがなくなったときではなく、
そこから取り去るものがなくなったときこそ達成されるものである」
工業デザイナー、アントワーヌ・ドゥ・サンテグジュベリのデザイン原理。

まさにデザインを学ぶ人、それを仕事とする人への至言だと思います。それに
私のつたないブログに最もあてはまるような忠告として心したいと思います。

ムック本も私にとっては価値ある「本」なのです。

Tarzan特別編集号 2002

横山国男

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2008年10月27日(月)更新

「ことばを旅する」・・・細川護煕から深まる秋の京都へ

’04年6月~’08年5月まで、週刊文春に毎月一回4年にわたり、中央見開きに
連載された細川護煕(もりひろ)氏の表題のエッセイを、旅の写真とともに楽し
みにしていました。

西行、良寛、漱石、与謝野晶子など、著者が「心に残る名言の生まれたゆかりの
地」を旅する紀行エッセイ集。
気に入ったものは時々スクラップもしていましたが、「テーマのある旅」というのも
なかなかいいですね。

先月単行本化されましたので、あらためて読ませてもらいました。
=「ことばを旅する」(細川護煕著 文藝春秋刊 @1600-)

「ことばを旅する」(文藝春秋@1600-)細川護煕著

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著者は熊本県知事から、第79代内閣総理大臣として、初めて自民党以外の
政権を樹立した立役者。 しかし’93年8月から10か月で退陣せざるを得なく
なったのは、氏の人生観が、権力とカネがものいう政治の世界と根本的に相い
れなかったのではないか、と私は想像しています。
細川首相が続くような国なら、日本はもう少し変わっていたかも知れません。

エッセイ第42回、兼好法師の「緒縁を放下すべき時なり」(徒然草)を地でいく、
還暦を迎えた’98年5月、あっさりと議員を辞職し、陶芸家の道へ。
湯河原に隠棲されているわけですが、第二の人生は創作に、というのは私の
憧れる生き方でもあります。

国会中継などで、かっての最高権力者が口を開けて居眠りしている図は、美しい
ものではありません。「老残」という言葉すら思い浮かびます。(失礼)
ロマンチスト、アーチスト・・・細川さんの「美学」では許せないものでしょう。

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細川さんは1938年1月生まれ、とありますから、今年70歳。
その風貌は、さすが肥後熊本藩主だった細川家の第18代です。
私が魅力的だと思う一つ目は70歳とは思えぬダンディぶり。まだ青年と表現する
のは無理でも、50代にも見えるのです。
「美」を追求している人だけが持つ、独特の若さがあるように見受けられます。

週刊文春 切り抜き。本カバーの裏表紙にも

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二つ目は、繊細で絵画のような素晴らしい文章を書かれること。
以下の文章は、先ほどの兼好法師「徒然草」を、生涯の友というべき書として挙げ、
修学院道(京都)を訪れた紀行文の文末に書かれたものです。
情景が浮かび、しっとりと心に沁みました。

 ・・・ 『横川を経て、兼好籠居を偲び訪れた秋の修学院道の紅葉はちょうど
    見ごろだったが、楓葉を散らす無常の風をまだ苦悩の中にいた兼好も
    感じただろうかと、そんなよしなし事を思いつつ、踏むには惜しい落ち葉
    の上をそっと歩いた。』

みなさまのテーマは「仏像」でしょうか、「季節の京料理」でしょうか。
秋真っ盛りの京都を旅したくなりますね。


横山国男

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