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2008年07月09日(水)更新

写真家・・土門拳の「風貌」。

何かを表現する仕事に憧れました。ました、というのはもうそのような時間は残って
いないし、第一表現する仕事、例えば画家とか音楽家とか映画監督とかの作品を
生み出すパワーみたいなものは常人の域をはるかに超えていますし、そうでなけ
れば人に感動など与えられるはずもありません。天与の才能は無論のことですが、
両方とも持ち得ないのであれば、プロの仕事を尊敬をもって見させていただくだけ
ということになります。

土門拳という写真家がいて、私達の若いころは木村伊兵衛とか入江泰吉、秋山
庄太郎などとともに大変な人気がありました。晩年脳梗塞から立ち直り、左手で
本業のカメラはもちろん、絵や書、骨董にも才長けた人だったようですが、後年
再び脳血栓に倒れ、11年間昏々と眠り続け、’90年、80歳でこの世を去りました。
出身地の山形県酒田市に全作品を集めた「土門拳記念館」があるそうなので、
いつかは訪れてみたい所の一つです。

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 黒澤明が仕事に入ると、当初の予算と製作日数は次々と膨れ上がり、延びて
会社(東宝)と常に悶着を起こしていたのと同様、土門拳も「日本工房」時代、その
後の独立以降も機材、フイルム、スタッフ経費などハンパではなかったようです。
現在のようにモノが溢れ、デジタルでどんなことでもできる時代ではありませんし、
特に戦前は良質なものは高価な輸入品に頼ることになります。しかしこのような
不自由と常に戦いながら自己の表現にこだわり続けた情熱こそ、後世にも残る
作品を生み出した原動力になっていたのも間違いないと思います。何不自由ない
というのは情熱、情動の敵かもしれません。

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土門拳の作品集では「風貌」が好きです。中でも“電力の鬼”松永安佐衛門は素晴
らしいので、時々引っ張り出して眺めます。日本人の顔、明治人の風貌を感じさせ
てくれます。(本当の事業家になるには、4トウ・・闘病、倒産、投獄、放蕩の経験
なくしては事業家とは言えん、と言ったと伝えられ、美の追求者でもあった松永
安佐衛門翁その人に魅力を覚えるせいかも知れませんが。)
「風貌」松永安佐衛門ー1 「風貌」松永安佐衛門ー2

昭和57年小学館から発刊されたこの土門拳全集(全13巻)9ー「風貌」には次の
ような編集後記があり、考えさせられます。少し長くなりますがご紹介します。

『本巻の風貌(一)に登場する肖像は、もはや私たちの周囲では見られない顔、
と言うよりは殆ど存在しない顔ではないかと、改めて認識させられました。
明治、大正、昭和の日本文化を支え、リードしてきた先達の風貌に共通するのは、
「素朴」「柔和」「厳格」「孤独」が同居する「人間の顔」です。
不幸にして私たちは、このような巨像に接することはできません。この素晴らしい
顔が消失しつつあるのは、日本から、何か大切なものがなくなりつつあるのでは
ないかと、思うのは私ひとりの感傷でしょうか。
それにしても、「風貌」には様々なエピソードが生まれました。多分それは、土門
先生が、諸国武者修行に旅立つ、剣客の心境からきたものではないでしょうか。
一瞬の立会いの、刃と刃の切り結んだ火花の結晶が、「作品」と言えるのでしょう。
この「風貌」は、まぎれもなく日本肖像写真の傑作です。大変な努力があったにせ
よ、これほど傑出した被写体と多く出会えたことは、写真家冥利につきるでしょう。』
(G)

と、ここまで入力して、「ウーン、こういう文章を書けるというのもカッコいいなあ、
ブログも向上するかも。来世は編集者というのもありか」と思う軽薄な私がおり
ました。

横山国男

【染型工房 横山工藝】
http://www.ykougei.jp/
【オーダー よさこい屋】
http://www.yosakoiya.jp/